とんでもマスク鑑定団

空気が乾燥してくる季節。
インフルエンザウイルスが活発になる時期に突入します。
マスコミの報道は下火になっていますが、私が身を置いている業界では、ここからが本番と見ています。
春の騒動以来、商品の欠品が相次ぎ、未だにメーカーは混乱しています。
当然、私の会社のような卸業者も、メーカーと顧客の間で板挟み状態。



特に深刻なのが、マスクです。
春先の注文が未だに入荷していません。
挙句の果てに、メーカーが「これ以上注文貰っても手に負えません。落ち着くまで受注停止します。」と言い出す始末。
そして、金儲け出来る需要があれば、色んなオイシイ話が飛び込んで来るものです。



中国と密なパイプがあるという、取引先からの話。
「直接マスクを輸入するんだけど、買いませんか」
その取引先は、マスクの販売はしたことのない業種です。
ただ、私の会社も受注残が溜まっており、大量購入をすることに。
事前に、マスクのサンプルも確認し、念には念を入れて。
最近では、大量の粗悪品やコピー製品が多く輸入されています。
「3層不織布サージカルマスク」と販売されていても、中層にフィルターを使用せずに表層と同じ素材の不織布やフィルターの意味をなさない「紙」が入っているなど偽物サージカルマスクが大量に流通しています。



そして、マスク到着の日。
休日出勤です。
とりあえず、一箱開けて検品。
嫌な予感。
マスクの入れ方が雑過ぎる。
下の方なんて折れ曲がって入ってるし。
取引先曰く「急いで作らせたからね。なるべく指導はして来たつもりなんだけど、上手く意志の疎通が出来なくて」。
いやいやいや、そういう問題じゃなくって。
しかも、箱詰め作業は日本でも行っていて、その会社が雇ったアルバイトの作品も多いとか。
それ、意志の疎通って問題じゃないでしょう。
それでも、中には綺麗に収まっている良品もありました。



入れ方も納得出来ないけれど、マスクの品質も重要。
見た目、貰ったサンプルと違うんですけど。
嫌な予感を拭いきれない私たちは、マスクを切断することに。
「あ、ちゃんとメルトブロー不織布(フィルター)入ってるじゃん。良かった良かった。でも、ノーズワイヤーは明らかに針金だよね」
そこは、一万歩位譲っていいとして、メルトブロー不織布が入っているので良しとしようということに。
しかし、「このマスク、何か質感おかしい」と思った1枚を切断。


「これ、ただの紙ですよね」


偽物発見。
調べてみたら、綺麗に収まっているマスク全部。
取引先、本気で焦ります。
「燃やせば判るから。メルトブローは火を点けると、溶けるようにして燃えるから」
ライターで炙ってみます。



勢い良く、燃え尽きました。
さよなら。



明らかに確信犯です。
材料が足りない→納期間に合わない→偽物を混入→罪悪感→丁寧に箱詰め。
全て辻褄が合ってしまいました。
勿論、こんな偽物を売れる訳もなく、商品は撤退。
私の会社としては、金銭的被害はなかったものの、このマスクを当て込んでいた客には迷惑を掛けることに。
悲惨なのは、取引先。
前金で買ったらしい。
箱詰め作業で、バイトも多数雇っているようだし、かなりの損害が予想出来ます。



ただ、ちゃんとメルトブロー不織布を使ったマスクも多数あり、きちんと詰め直せば出荷出来る物もあるのです。
取引先の工場は、館林。
箱詰めバイト指導と人手確保の為、工場勤務に回されそうな気配が漂っています。
明日、辞令が出る模様。
遂に工場勤務も経験することになるのでしょうか。