嘘も方便②  〜スター誕生編〜

ウチの会社の売上げ計上は「当日出荷分」です。
つまり、7月31日に出荷出来た物のみが、7月の売上げとなります。
値の張る車椅子の多くは、午前中で当日出荷の締め切り時間となるので、勝負は午前中です。
営業は朝から電話営業です。



始業時間は朝9時です。
「この商品、あと3台!!」
「あの物件確定しました」
「その物件は今から確認の電話入れます」
などなど、緊迫した雰囲気です。
私は先週不確定物件だった物が受注になり、決裁願(値引き申請)を作成していました。


そのとき、携帯が鳴りました。
業者「あ、ねじまきさん、良かった〜繋がって」
ねじ「お世話様です。どうかしたんですか?」
業者「すっごく申し訳ないんだけど、○○(施設名)から、9時半までに見積出せって連絡があって…急ぎで頼みます」
ねじ「商品と数量は?」
業者「アレを10台とソレを2台、あとコレを6台なんだけど」
ねじ「おぉ!!価格は前回と一緒でいいっすよ。さすがに今日受注にはならないですよね〜…」
業者「さすがにねぇ。ありがとうございました」


その施設というのは、立ち上げ時からウチの会社の商品を買ってくれている、お得意様です。
無理な注文をしたり、値切る額が半端じゃなかったりして、気難しい所ですが、他メーカーに浮気はしないし、何より金持ちなのです。
その日も、30分足らずで見積をいきなり要求してきたようです。
普通、何十万という買い物は、施設内で稟議書上げて、購入許可を得るという作業があるので、受注まで1週間はかかると見ています。


その間も、あちらこちらで営業が数字を積み上げています。
私も、先程の見積をすっかり忘れ、電話攻撃です。
9時45分、またしても携帯が鳴りました。

ねじ「あ、先程はどうも。あの価格じゃ厳しかったですか?」
業者「かなり値切られたけど、なんとか…。で、またまた無理なこと言われたんだけど、明日持って来いって。さすがにあの数量じゃ無理だよね?」
ねじ「ハイ、喜んで!!何としても明日納品します!!」
奇跡が起こりました。
総額約100万円の大きすぎる物件が転がり込んできました。


そこで、隣で売上げ計算をしている先輩に報告です。
ねじ「あのぅ…こんな物件決まっちゃったんですけど」
先輩「ん?何が何台?いくら?」
ねじ「アレが10台と、ソレが2台に、コレが6台で、総額○○です」



一瞬、支店内が沈黙しました。
スター誕生の瞬間です。
沈黙の後、歓声が沸きあがりました。
私は大して何もしていないので実感が沸かず、きょとんとしていました。



この受注の中には、キャンペーン対象商品もあり、ポイント獲得が絶望視されていた商品も、獲得圏内にのし上りました。
一気に営業は加速しました。
「あと4台、ぶち込め!!」
「○○さんが、今2台の物件確認中です」
「1台注文もらった!!」
「もう締め時間過ぎちゃうよ」
「あ〜、もういい、あそこの業者に送っちゃって」



結局、その日の売上げは普段の2倍。
見事、支店内の最低ノルマを達成することが出来ました。
月末のこの緊迫感、嫌いじゃないです。
奇跡を起こしたことですし、「午後は何もしなくていいや」という気分だったので、営業に出るフリをして、ちょっと高級なファミレスで寛いでいました。



次回はキャンペーンの結果でしょうか。
恐らく、続く。