大きな真珠貝で穴を掘って そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい

本日は、実家に帰省しています。
隣の駅に用事があったことと、転居届を受け取りに行かなければいけなかったことと、愛犬の命日が近かったこと等々の理由です。
実家はやはり落ち着きます。
何も考えずにテレビを見たり、本を読んだり、そんな時間がたくさんあるのが有難いです。
一人暮らし先ではやることがあり過ぎて、じっとしていると落ち着かないのです。



パソコンが新しくなっていたり、犬が太っていたり、この家も少しずつ変わっていました。
久し振りに集まった友達も、少しずつ変わっています。
桜もそろそろ咲くでしょう。



何となく、実家に置いてきた本を眺めていました。
たまたま手にとってパラパラ捲った本。

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

高校生のときに課題図書か何かで購入した本です。
保存状態が悪かったので売ることも諦め、秘蔵図書と化していました。
久し振りに読んでみると、物凄く文章が美しくて驚きました。
さすが日本の文豪。
特に、夢十夜の第一夜が好きです。



すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺ぐ茎の頂に、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った。そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。



泣いて笑って食べて飲んで、明日はもう来ていたんだな。