走行者優先

一昨日、以前から馴染みのある業者さんを訪問したときのことです。
その業者さんは、私の父親位の年齢、息子も私と同じ歳ということもあり、親子のような間柄です。
少し変わった親父ですが、訪問する度に、独特の味がする特製コーヒーをご馳走になりながら、ダラダラ長居させてもらっています。



いつものように、私の近況報告だとか、前の会社の現状だとかを話していました。
そして、こんなことを言われてしまいました。
「ねじ君はさ、絶対仕事最優先するタイプでしょ」
自分では、仕事中心の人生なんて嫌だと思っています。
しかし、よく考えてみたら、相当重要な用事でない限り、仕事を優先していました。
もし、仕事を蹴ってプライベート優先にしても、蹴った仕事が気になってしまって楽しめません。
どうも、私は割り切るのが下手なようです。



本当にそんなこと言う人がいるのかは解りませんが、ドラマや漫画で、女性が「私と仕事どっちが大事?」と恋人に詰め寄るシーンがあります。
私が男なら、即愛想が尽きます。
仕事と恋人はフィールドが全く違うから、どちらかを選べという時点で間違えています。
更に、そういう奴に限って、「君の方が大事で、長く一緒にいたいから、仕事やめてフリーターになったよ」ということになったら、数カ月後には「ちゃんと私たちの将来のことも考えてよ」と言うに違いありません。
一生懸命働くのは生きて行く為なので仕方ないです。



脱線しましたが、その日は社長が接待の為、会社に戻ってもいません。
久しぶりに早く帰って、魚料理でもしようと張り切って会社に戻る途中、携帯が鳴りました。


社長「あのさ、悪いんだけど、金曜徹夜出来る?」
ねじ「は?一体何が起きたんですか?」
社長「ちゃんと特別手当出すからお願い」
ねじ「謹んでやらせて頂きます」


何でも、社長が半分趣味で作って売った台車が、土曜の朝一番までに14台納品という注文が来てしまったとのこと。
金に目が眩んで、即答してしまいました。
更に「あと、明日の製作前に、あそこの施設行くから、例の提案書よろしくね」と付け加えられました。
その提案書とやらは、その時手付かず状態。
早く帰る目論みは破れ、泣く泣く夜遅くまで提案書を作っていました。
やはり、自分は仕事優先人間なんだと思いました。



そして、昨日は7時に出社、昨晩作成した提案書をチェックしてもらってから客先へ。
それから急いで帰り、台車作りに取り掛かりました。
客先にはスーツですが、それでは作業が出来ないので、履き古したデニムパンツに、ジャージという戦闘服姿に着替えました。
台車は、イレクターという細いパイプで作ります。
寸法を図って切断、パイプとパイプをジョイントする部品を組み合わせて作ります。
さすがに台数が多く、手作業で切断することは不可能なので、社長の知り合いがやっている板金屋に連れていかれました。
電動カッターの火花に恐れおののきつつ、切る、切る、切る。
この歳にしてまた一つ経験が増えました。
ちなみに、我が会社の主な商品は「消毒、衛生消耗品」であって、化学系の商品です。
間違えてもガテン系ではありません。



部材を切り終わった時点で18時過ぎ。
途中で景気づけに、夕飯の寿司を買って帰社。
今度は組み立て作業に移るのですが、寸法通りに組み立てないといけない精密な作業です。
質の悪いことに、専用の接着剤を一度付けると絶対離れないので間違いは許されません。
そんな真剣作業ですが、私は深夜になるとナチュラルハイになって行きます。
真剣になればなる程、可笑しくなってツボに嵌って笑い出しました。
つられて、もう一人の経営者も壊れました。
社長は「接着剤のシンナーでラリったな。誰かこの小娘を何とかしてくれ」と音を上げていました。



何とか発作も収まり作業も順調、これなら約束の時間に間に合うと、一同胸を撫で下ろした瞬間、問題発生。
社長が計算間違いをしていて、部材が足りなかったのです。
それでも、ゴミ置き場に放置してあった色の違う部材で何とか対応出来ました。
4時を過ぎると、みんな魂の抜け殻状態。
そして、無事始発の20分前に完成、清々しい朝を迎えられました。
ペンキが付いた小汚いジャージ姿で帰るのなんて屁でもありません。
さすがに疲れました。



念の為、この会社はガテン系の仕事ではありません。
年に数回、倉庫を組み立てたり、庭園を作ったり、床の張替えをしたりしたとしても。
一生懸命なら趣味も仕事も注ぐ力は一緒です。
仕事優先だって、悪くないと思います。