本に出てくる人は、続きがないから楽だけれどさ

人の一生ちゅうのは、よけいな続きが長いんだよ。
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噂 (新潮文庫)の衝撃から2ヶ月余り。
また性懲りもなく荻原浩の作品です。



主人公は、フィリップ・マーロウに心底憧れた末、探偵になってしまった人です。
しかし、現実は平和なもので、仕事といえば行方不明の動物捜しか浮気調査ばかり。
そんな退屈な毎日の中、仲間に加わったある意味美人秘書と殺人事件。



この話の面白い所は、何と言っても主人公です。
マーロウを尊敬し、言動まで真似ています。
そして、それを格好良いと陶酔しているナルシスト。
しかし、周りは理解してくれず、空回り。
実はいじめられっ子でもあったけれど暗くはない。
何だかんだ言ってもいい人である彼のシュールなやりとりは、荻原浩節炸裂でした。



小説に出てくる有名な名探偵たち。
金田一耕助明智小五郎、はたまたシャーロック・ホームズ等なんて、現実的ではありません。
殺人事件なんて滅多に起こるものではないし、その現場に立ち会うことなんて奇跡に近い偶然です。
そして、捜査は警察の仕事なのですから。
その探偵のまわりでやたら殺人事件が起きる、相当悪運の持ち主だと見えます。
そんな探偵が近くにいたら、お近づきになるのを避けるのが生き延びる術だと論じている人がいて納得しました。



この主人公はキザな言動だけで、実力は伴っていません。
喧嘩も弱いし、損な役回りだらけです。
あんなに憧れた探偵稼業も、小説とは全く異なります。
いざ、死体を見れば足はすくむし、嘔吐もします。
それが普通の人間ってやつで、かえって親しみ易かったです。



面白いのは確かですが、中弛みしてしまっていて、いまいち波に乗り切れないまま読み終わってしまいました。
やはり、読み手としてはあり得ない展開でも、周りでバタバタ殺される話を求めるようです。