出来れば、もう会いたくない

私のマンションの周りには野良猫がたくさんいます。
どうやら隣のアパートの住人が餌付けしている様子。
猫村さんにそっくりな模様の猫、やけに色素の薄い猫、明らかに飼い猫なのに野良ぶってる猫。
最近では、顔ぶれを覚えてしまいました。
そして、奴らは無愛想極まりない猫たちです。
何もそこまで忌々しい顔で自分を見ないでも良いのに、と思ってしまいます。



毎晩、路地に入ると猫たちが手厚く迎えてくれます。
これでもかって程、ガン飛ばされています。
しかし、今日は見かけない顔が。
子猫を脱したばかりの若い猫です。
顔が小さくて、スタイルが良い猫でした。
かなり可愛い。
そして、私の後を付いて来ます。
私の心は揺らぎます。



もう大人なので、飼えないとわかっている猫に中途半端な情を抱いてはいけないことも解っています。
ここは、無視を決め込まないといけないのです。
しかし、タイミングの悪いことに、私は重度の「動物欠乏症」に陥っていたのです。



「動物欠乏症」とは、無性に動物を触りたくなる病です。
ご存知の通り、実家には溺愛している犬がいます。
アニマルセラピーとでも言うのか、犬を抱いているとトゲトゲした心が丸くなります。
あの何ともいえない犬臭が落ち着くのです。
そして、あどけない表情と、柔らかい感触。
約1週間前に会ったばかりでしたが、既に犬が恋しくて仕方なかったのです。
同じ種類の犬を見る度に心は締め付けられます。
そして、近所のコンビニで掌に収まる程小さいチワワと目が合ってしまい、欠乏症の症状は深刻化していたのでした。



そんな心理状態だったので、我慢できずに猫を撫でてしまいました。
心のトゲが抜けていくような開放感です。
物凄く可愛い。
はっと我に返り、ごめんと謝ってマンションの入り口に入りました。
しかし、猫はオートロックを物ともせずに付いて来ます。
ウチのマンションはオートロックですが、余裕で塀を乗り越えて進入可能な気休め程度の代物なのです。
遂に2階まで付いて来てしまいました。
もう振り返るのも辛くて、急いで部屋に入りました。
それでも気になり、30分後玄関を少し開けて、外を覗きました。
後悔しました。
まだ外にいます。
しかも目が合いました。
一瞬、猫の表情が明るくなったような気がしました。
本当に申し訳ないです。
こうして、私は自分勝手な大人になってしまったんだと思った初夏の夜。