巣立ち

私の会社の入り口のすぐ横。
毎年、ツバメがやって来る。
大家さんが糞避けガードを作ってくれて、人間様にも迷惑が掛からない。
保育園やら駐輪場やらの通り道で、人通りもそこそこあります。
外敵のカラスからも身を守りやすく、雨風の影響もほぼない。
ツバメにとっては、超優良物件。



皆、立ち止まってツバメの子どもの成長を眺める。
みんな笑顔です。
私たちは、そんな光景を社内から覗き見ることが出来る。
ツバメのことを、社内では「チュン吉」と云う。
毎年、同じ名前。
それが、合言葉。



そろそろ、今年のチュン吉Jrも巣立ちそうということで、カメラを持って出社。
あれ、いつもと違う。
そこら中で、ツバメが飛び回っている。
しかも、おぼつかない飛行。
しまった、写真を撮る前に巣立ったか。
そう思って巣を覗くと、いつもの3羽が顔を出していました。

どうやら、近所のチュン吉たちの巣立ち日だったようです。
初飛行のチュン吉Jrたち。
低空飛行で、よたよた舞う。
そこで見つけてしまいました。
道路の真ん中でピョコピョコしている一羽。
これでは、車に轢かれてしまうのも時間の問題。
せめて、車道から離してやろうと思って追いかけたところ。
自分が車に轢かれそうになりました。
けたたましいクラクションに驚いて外に出てきた社長に目撃される。


運転手と社長に頭を下げつつ、チュン吉を保護しました。
この子、まだ産毛が生えている。
どう考えても、まだ巣立ちには早い。
でも、大きく育った兄弟と一緒に巣立ちの日を迎えてしまった模様。
とりあえず車道は危険ということで、社長が即席の安息所兼飛行台を作ってくれました。
最悪、飛び立てなくて面倒を見ることになるのを踏まえて、私は餌を買いに走る。
勿論、「ミルワーム」うにょうにょ動く芋虫の小さいやつです。
「うわ、気持ち悪い」と思ってもいられません。

とりあえず、ミルワームを割り箸で与えてみる。
完全拒絶。
やっぱり親鳥から与えないと駄目なのか。



しばらく、チュン吉を飛行台に乗せて様子を見ることに。
そうすると、親鳥らしきチュン吉が。

定期的に餌も与えてもらっているようで、一安心。
しかし、このチュン吉は本当に飛ぶのが下手くそ。
飛び立っては車道に落ちて固まる。
その都度、救出。
ときどき親チュン吉が来ては、飛行指導をしている。
兄弟たちは、器用に空を旋回。
チュン吉は、どうやら上昇出来ないらしい。
それでも、少しずつ飛距離が伸びる。
半日掛かって、ようやく自動販売機の高さまで飛べるようになった。

そして、夕方。
何かのきっかけを掴んだのか、遠くに飛んで行った。



本来なら、弱い者は生きていけない自然の掟。
私たちがしたことは、お節介だったのかもしれない。



因みに、無駄に終わってしまった「ミルワーム」。
冷蔵庫で保存しないと、蛹になってしまいます。
袋で厳重に包んで、冷蔵庫の目立たない所に保管。
しかし、虫が大嫌いな経営者に見付かり、かなり叱咤されてしまいました。
日常茶飯事ですが、社長と共にお灸を据えられたのでした。
でもいいや、チュン吉が無事巣立ってくれたから。