そうだ、行ってしまおう

この旅を企みはじめたのは、去年の夏頃だったでしょうか。
目的は言わずもがな、「若冲展」。
お金もないし、夜行バスを使って日帰り貧乏旅行でも構わなかったのですが、滅多にない機会なので京都に一泊することにしました。
私は、大学卒業前に京都に一人旅をしたことがあります。
当時は初めてだったこともあり、一人でいるのに若干居心地の悪さを感じました。
以前の私は、一人で飲食店に入ることすら躊躇していました。
他人の目が気になったり、手持ち無沙汰な気分が嫌でした。
しかし、人は他人に無関心で、自分には大事な人がたくさんいて、一人じゃないんだと分かったときから、一人の時間を楽しめるようになりました。
年月は人を変えるもので、今は本が一冊あれば全く平気です。



今回の予定は5月に入ってから決めました。
ちょうど仕事がゴールデンウイーク中に忙しく休めなかったので、まんまと代休を貰うことに成功しました。
当初は、土日を使って行こうとしていましたが、休日の若冲展は恐ろしく混雑しているだろうと危惧していた所の朗報でした。
月末に休みを貰えただけではなく、「どうせ、貧乏旅行なんでしょ?」とお小遣まで頂けました。
会社大好きです。



京都に行くなら、旅行会社で新幹線チケットと宿付きのフリープランが一番安いと思います。
しかし、それでは芸がない。
そこで、宿泊先は宿坊にしました。
寺に泊まるのです。
だいたい1泊朝食付きで5千円前後です。
そして、貴重な体験はプライスレス。



京都は快晴です。
陽射しは暑いですが、風は冷たくて気持ち良い気候でした。
京都には観光地がたくさんあるので、行く所に迷いましたが、今回の目的は若冲展です。
折角なので、伊藤若冲ゆかりの地へ行くことにしました。
どこまでも続く鳥居が有名な伏見稲荷の近くにある石峰寺には、伊藤若冲のお墓があります。
マイナーなのか、殆ど観光客はおらず、とても静かでした。
受付でお坊さんが「暑いでしょうから」と団扇を貸してくれました。
そこには、若冲のお墓だけではなく、若冲が下絵を書いたという羅漢も素敵でした。
五月の青々とした緑と静寂に包まれた空間は、とても居心地が良かったです。



京都駅に戻り、念願の都路里抹茶パフェを食べ、大満足です。
それから、宿泊先である妙心寺に移動です。
境内には修学旅行生がたくさんいました。
偶然にも、私の母校御一行様がいました。
遠目から見て、どこかで見たことある野暮ったい制服だな、と思ったら鞄に出身中学校の名前が刻まれていました。
そんな偶然もありつつ、ようやく妙心寺大心院に到着しました。
その日は宿泊客が少ないらしく、素敵な庭が独り占めできるお部屋に通してもらうことが出来ました。
宿坊といっても、大広間に皆で布団敷いて寝るわけではなく、個室です。
ただし、襖1枚で隔てているような感じなので、物音、雑音はつつぬけです。
それでも、清潔だし、安いし、ちょっと変わった体験が出来るのでお勧めです。
しかし、私の宿泊した日の朝は何かの行事があるとかで、朝のお勤めがありませんでした。
座禅組んで、煩悩を取り払う気満々だっただけに残念です。
部屋にはテレビもなく、夜はとても静かです。
ハウスダストからも開放された私は、心置きなく眠ることが出来ました。



宿坊の朝はとても静かです。
ぐっすり眠って気分も晴々した中の朝食です。
その日宿坊を利用したのは、私を入れて4名。
2名は外国の方たちで、朝一番の新幹線に乗るとのことで朝食を摂らずに出て行きました。
もう一人は、私と同年代で、同じく一人旅をしている女性でした。
二人で朝食を食べながら話していると、その人も若冲展が目的と言うではありませんか。
この偶然がとても嬉しく、若冲話に花を咲かせました。
宿坊は、こういった出会いがあるのも楽しいものです。
朝食も評判通り絶品で、おかわりまでしてしまいました。



先程の彼女から、若冲展はかなり混雑すると聞いていたので、早々に宿坊を後にしました。
まだ開場1時間以上前に到着したというのにも関わらず、既に長い行列が。
詳しくは別に述べたので割愛します。



若冲展を堪能した後、豆腐で有名な「とようけ茶屋」に向かいました。
そこでも数名並んでいました。
この旅はよく並びます。
湯葉丼に舌鼓を打ち、近くの北野天満宮でお参りしました。



京都駅周辺でお土産を買い、この旅は終了です。
たまにはぶらり一人旅。
疲れた毎日から、少しだけ脱線して羽を伸ばす。
上手く呼吸する方法を思い出したところで、臨戦態勢といきますか。